肩凝りなどのように筋肉の疲労に由来するものではなく、胸郭出口(鎖骨の裏側付近)で神経や動脈が圧迫されて上腕や前腕、手に発する痛みや痺れ、時には手に力が入らないなどの運動麻痺が起こることもあります。 頸椎から出て腕に行く腕神経叢は、心臓を出て腕にに行く腋窩動脈と接近し、並走して首を横に傾ける役割の前筋斜角筋と中斜角筋の隙間を抜けて鎖骨の上の体表に出てきます。この隙間が第一の圧迫を受け易い関門で、この部位に起因する症状を(斜角筋症候群)と言います。横に走る鎖骨の中央辺りのやや上を指で触れるとドクドクと脈を感じる場所です。第二の関門はそのすぐ下部で、鎖骨の裏側、第一肋骨との間の通り道がやはり狭くなって圧迫されることがあります(肋鎖症候群)。第三の関所は鎖骨の外側の下部で小胸筋と肋骨、烏口突起に挟まれる場所で、神経・血管が圧迫を受けることがあります(過外転症候群)。 かつてはこれら三つの症候群を病名として個別に扱っていましたが、数か所で同時に圧迫され一か所に特定できないケースも多く、今日ではまとめて「胸郭出口症候群」と言っています。同じく腕、手の痛み、痺れを起こす頸椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニアというのがあります。これは頸椎から神経が出る出口がで神経が圧迫されて発症しますが、これは別の項目で取り扱います。
痛みや痺れの多くが上腕後面(上腕三頭筋)、前腕前面肘近く、指(人差し指、中指、薬指)に現れますが、原因は首回りにあるので、ここに刺鍼します。斜角筋は首を横回旋した時に向いた方と反対側の頸横に浮き出る教唆乳突筋の後ろに奥に位置します。また鎖骨上縁の上で内外の中央辺りで強く推すとズーンと上腕まで響く場所があります。ここも需要なポイントです。更に鎖骨の肩近くの下縁にも骨ばった場所のやや肩寄りを押すとやはり、肩の方にズーンと響く場祖があり、これも需要なポイントです。それぞれ三つの関門に一致しますが、症状を分析しながら最適な箇所を選んでいきます。 尚、痛み痺れがある部位の筋肉は、その支配神経が圧迫されていることで炎症を起こし、意思とは無関係に勝手に電気パルスを発している結果絶えず収縮状態で疲労し、脳に痛みや痺れとして伝えていると考えます。それ故、神経の圧迫箇所にもならず、痛みを発する筋肉にも刺鍼し、筋収縮を緩めることも痛みを緩和するのに有効です。
神経痛の場合、部位に限らず共通して鍼治療直後、痛みが劇的に緩和していることがある一方、数日、早い場合は治療した夜に、又発痛することが少なくありません。時間軸を横に、痛みを縦軸にグラフ化すると、治療を続けるたびに曲線的に痛みが減っていくというより、幅のある棒グラフの様にいきなり大きく上下します。うそのように痛みが減ってその状態が少し続いて、いきなりまた前と同じ程度の痛みが出現するといった状態ながら、徐々に棒グラフの高さが低くなっていきます。 鍼治療は痛みが出たらその都度施術するのが効果的です。治療開始当初は週に4,5回の場合も少なくありませんが、2,3周目から痛くない時間がだんだん長くなってきて、週1,2回から4,5週目で1,2週に一回程度で済むように痛みが軽減してきます。ただし個人差が大きく、早い方は2週目位で、ほぼ痛みが消失する一方、半年続けても痛みが残る方もいます。