発症は突然顔面半分が動かない、と気づくより、いつもの日常動作の中で口に含んだ水分が口元から垂れてきた、あれ何で? 鏡を見たら片目の瞼が閉じないことにも気づき、こりゃ大変だ! となるようです。 原因は大きく3つに分けられます。 1.中枢神経(脳内)に起因するもの。鑑別は額に横しわ寄せができるかどうかで、しわ寄せが可能なら脳梗塞などが疑われます、緊急処置が必要です。 2.水痘・帯状疱疹ウイルスの活性。帯状疱疹と同じウイルスで過去に罹った水疱瘡感染後に体内の神経節に潜んでいたウイルスが何かのきっかけで顔面神経に侵入してくる。 ラムゼイ・ハント症候群と言われるもので、1907年米国の神経内科医ジェームズ・ラムゼイ・ハントがウイルスによる病因を突き止め提唱しました。 特徴は顔面麻痺以外に耳にも症状がでて、痛みと共に赤い小さな発疹が出たり、難聴や耳の閉塞感が伴うものです。 3.顔面麻痺で一番多いのがベル麻痺と言われるもので、顔面麻痺全体の60%を占めます。上記2のラムゼイ・ハント症候群が15%。 スコットランドの解剖学者チャールズ・ベルが1800年頃、麻痺の原因は末梢神経(顔面神経)の麻痺によると提唱し、提唱者の名前(苗字)が病名になったものです。 原因は単純ヘルペスウイルスⅠ型と言われ、口唇ヘルペスの原因ウイルスと同類です。ただしベル麻痺のすべてが単純ヘルペスウイルスに起因していると実証されておらず、 原因不明なものも含めベル麻痺と称しています。 顔面麻痺の発症率は人口10万人当たり年間30人程度、その7割程が発症から4か月以内に回復すると言われています。 顔面(表情筋)麻痺に加え顔面神経のどの部位に炎症・浮腫が起きているかにより 涙分泌減少、聴覚過敏、唾液分泌減少、味覚消失 の症状を伴うことがあります。これは顔面神経には表情筋を動かす運動神経に知覚・分泌を促す副交感神経性の中間神経が伴走しているためです。
表情筋を動かす顔面神経が頭蓋骨内から外に出る穴、茎乳突孔は耳たぶ付け根奥にあり、一義的にここに刺鍼します。 顔面神経は茎乳突孔から外に出たあと大きく4つの枝,下顎縁枝、頬骨枝、頬筋枝、側頭枝、に分かれ顔の下から上にかけて各分野を動かしていますので、それぞれの神経枝及び支配筋肉に10本程度刺鍼します。仰臥位で治療しますのでそのまま15-20分休んで頂きます。 その後、顔面マッサージ、お灸などで表情筋を刺激します。 患者さんに事前説明、了解のもと鍼に電気を流し、表情筋を強制的に軽く動かすことがあります。電気刺激で筋肉を強制的に動かし血流促進を高め回復を促すもので、より有効な治療法と考えています。 しかしながら、電気刺激が例えば目を閉じると連動して口元が動いてしまう、などの病的共同運動を引き起こすのでは?との見解もあり、電気刺激の評価は確定していません。 はりきゅうを試される前に多くの患者さんは病院で1~2週間治療を受けておられる方がほとんどですが、医師によっては電気刺激はしないようにと言われる患者さんもおられます。一方病院ではNET(電気生理学的検査)のため通電しますので、何が何でも電機は絶対ダメというわけではありません。 我々鍼灸院で電気を使用する際には共同運動が起きていないか慎重に確認しながら少しずつ通電時間を延ばしていく、筋肉ごとに違った周波数で通電する、など共同運動防止の工夫をしています。当院では現在まで電気を利用した顔面麻痺治療で病的共同運動の発症例はありません。 ただ電気を利用するかどうかは、あくまで安心して治療を受けて頂くために患者さんの意向を最優先に考えています。 他に、桂皮の小片をアルコールに浸し、抽出液を脱脂綿に浸し麻痺した顔面に日の数回塗布してもらうことを患者さんに進めています。 桂皮シナモンの発汗作用で塗布後は少し熱感を感じますが血行促進に有効です。
発症後1-2週間であれば10日間程度毎日鍼刺激をするのが最善と思われます。ただ患者さんにとって費用と時間がとれるかを考えると週2回程度が現実的かと思われます。 2週間、計4-5回の施術で少し回復傾向にあるなら鍼の効果ありとします。その場合仮にそもままほっておいても自然治癒する確率は高いと思いますが、更に1-2週間でも継続するかどうかは患者さんご自身で決めて頂くことにしています。 当初4-5回で全く変化が見られない場合は治癒するにしても半年-1年など長期化が予想されます。この場合治療を継続するにしても治療頻度が上がればその分回復が早くなるデータがないため1~2週間に1回の治療で良いと思います。 長期化が予想される場合、後遺症の残無も含め個人差が大きく鍼治療に関しても確定的なことは解っていません。 従って更に鍼治療を継続するかどうかは患者さんの意向に沿うようにします。治療を中断する場合もあります。