鍼と自律神経
鍼治療をすると眠くなる、時にはぐったりすることがあります。これは鍼治療によって副交感神経が活性化されたからと理解され、このこと自体は鍼によるリラックス効果として好ましい反応とされています。
しかしながら鍼が刺さるということは外部から物理的侵襲刺激を受けるわけで、むしろ防衛本能として交感神経が優位に働くはずでは?
この疑問に応えるべく以下の仮説を立ててみました。
鍼治療が初めての方は尚更ですが、刺さるまでの恐怖感、不安感による精神的作用と、刺さる瞬間の痛み(切皮の痛みといって鍼師はこれをなるべく出さないように工夫します)によって交感神経が優位に働く。しかし刺さった後しばらく鍼をそのままにして置く場合とすぐに抜いてしまう場合がありますが、いずれの場合も生理的には微細ではあるものの刺鍼で損傷した部分を修復しようとするために副交感神経が賦活され、結果眠くなるのでは?
野生の動物が怪我をした時、癒えるまで動かずじっとしているのは動かないのではなく、眠くて動けないのかもしれませんね。
神経生理学的な観点から刺鍼による生体反応を解き明かす研究は数多くなされていますがそのほとんどは鍼が刺さった後からの現象を対象にしたものです。一方副交感神経を活性化するにはその前段として少しだけ交感神経を刺激することが有効だと指摘する研究者もいます。
このことから刺さるまでの多少の精神的緊張は交感神経を適度に賦活し、刺鍼後の副交感神経の興奮を
誘導している。だとすると全く無痛でいつ鍼を刺したかも分からない鍼よりも鍼が打たれる直前の多少のドキドキ感や適度のチクッとした痛みはあったほうが治療後副交感神経を活性化するという観点からはより効果的ということか。
でもやっぱり痛みは極力出ない、出さないほうが鍼を打たれる側にとってはいいですよね。