新型コロナウイルスと鍼灸

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江戸時代に海外から流入したコレラや、古くから日本にもあった天然痘など、人から人に移る感染症により、過去多数の死亡者が出ていた。西洋では17世紀に開発・進化してきた光学顕微鏡や、種痘ワクチンのジェンナーなどの出現で、すべての病の原因は肉眼では見えない病原菌に依るとの考えが主流となり、未知なる病原菌の発見と、これを駆逐する薬の開発に主眼をおいた西洋医学が隆盛期に入る。この考え方は蘭学を通じ日本にももたらされた。

江戸後期には当初から西洋医学に触れる者が増え、西洋医学を志す者や、それまで漢方、鍼灸が中心の医者達も新たに西洋医学を取り入れ、東洋・西洋医学の混在・融合が図られていた。

そのころアジア地域がことごとく西洋列強の植民地となり、その脅威が日本にも及ぶことを危惧した者達が明治維新を起こした。明治政府は西洋列強に伍すべく富国強兵を国是として、西洋文明を積極的に取り入れる中、医療においても西洋医学を国の中心に据えた。

当時の世界は戦争が頻発しており、負傷した兵士の対応に苦慮していた。消毒の概念より傷口の細菌感染予防、外科手術の発達により負傷兵を治癒させ、再度戦場に送り出せる西洋医学への信頼がますます高まった。

そんな中、ドイツ留学を経て陸軍軍医となった森鴎外と、江戸時代より英国と交流していた薩摩の出身で英国医学を学び海軍軍医となった高木兼寛(その後現慈恵会医科大学の創始者となった)の脚気論争が起こり、結果陸軍の細菌説が否定され、多くの兵士の命を奪ってしまった責任を森鴎外が負うことになる。

江戸時代に白米が流通するようになり脚気患者が増えていた。明治に入って白米を支給する軍隊でも脚気が流行していた。全ての病の原因に細菌(当時はウイルスという概念はまだなかった)説をとるドイツ医学が中心の陸軍は兵士に引き続き白米を供給し続けた。

一方成り立ちもも英国海軍を模した帝国海軍は英国医学の影響でその軍医であった高木兼寛も栄養説を主張した。経験的に麦飯を摂取すると脚気が少ないことから海軍では白米に麦飯を混ぜて支給し、脚気り患者を減少させた。

麦飯にビタミンB1が含まれていて、不足が脚気の原因であることがわかるのは明治末期に鈴木梅太郎により抽出されたオリザニン(ビタミンB1)が出た後からである。

今、世界は新型コロナウイルスとの闘いの真っただ中にいます。直接の原因はウイルスであり栄養不足でもビタミン不足でもなさそうですが、長い鍼灸治療の歴史から鍼灸で免疫を高めておくことが感染症にかかりにくいことがわかっています。

江戸時代に自然界にない白米を普及させたことが脚気を生んでしまいました。白米の普及と同時にビタミンB1を含んだ植物も日常的に摂取できていればその後の展開は違っていたでしょうが、江戸時代から明治時代まではそこまでの知見知識はありませんでした。

新型コロナウイルスの繁殖を抑える薬が早く見つかればよいのですが、その有力候補の一つアビガンでも副作用がかなり大きいようです。

鍼灸治療は直接ウイルス対策に関係なさそうに見えますが自律神経のバランス効果、血流改善などが本来生物が持つ自然治癒力を高め、ウイルスの予防効果になっていることは否定できません。鍼灸は時間もかかり、多少痛いこともありと薬に比べ効率の良くない治療法かもしれませんが、急がば回れ、こんな時だからこそ、治療中眠ってしまいそうになる鍼灸治療もウイルス対策の選択肢として取り入れてみてはいかがでしょうか。

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