東洋医学にもEBMの視点?
東洋医学では体表に”つぼ”(経穴(けいけつ)というのが正式名)という反応点があり、これはまた診断点であり治療点でもあることに注目しているのが伝統的な鍼灸治療です。
東洋医学は大きく漢方と鍼灸にわかれています。 治療方法が違うため古来より独自に取り扱われてきましたが根本的な生命観は同じ理論構成です。東洋医学はその根本理論が体系化した約2千年前当時の科学が基になっているものの”つぼ”や”気血”など現代科学の視点からの生理学的解明はまだできておらず、また見解も国、流派等で多少違いがあります。それでも現代に生き残っているのは科学的に否定しきれていないことと長年の経験則の蓄積から実際に症状が治癒し改善するから、そしてもう一つ鍼灸治療に副作用がほとんどないからです。(逆にいうと例え治療が間違っていても悪影響を及ぼさなかったということです。)
一方現代医学(東洋医学に対峙して西洋医学ということもあります)では治療法がEBMに基づき科学的根拠に裏打ちされているはずと思われています。
EBMとはEvidence Based Medicineの略で”(科学的)根拠に基づいた医療”と訳されています。つまり信頼度が高く納得がいく医療というわけです。
では現代医学のEBM度はどの程度なのでしょうか? 医療従事者ではない一般の人にはなんとなくですが現代医療で治療すれば8,9割は治るような気がしませんか?
例えば血圧を下げる薬がどの程度効果的なのか? 例として上の血圧(収縮期)が160mm/Hg以上の人が将来高血圧が引き金となる心筋梗塞になる確率が10%、このうち降圧剤を飲んでも心筋梗塞になってしまう確立が7%、つまり高血圧の人が降圧剤を服用すると心筋梗塞を免れる確率が3%高くなるというのが降圧剤の効果EBMだそうでです。(参照「治療をためらうあなたは案外正しい」名郷直樹)
別の言い方をすると100人の高血圧の人であっても降圧剤を飲む飲まないに関らず将来心筋梗塞を起こさない人が90人、降圧剤を飲むとこれが93人に増えるということ。逆からみると降圧剤を飲んで血圧が下がっても10人中7人は心筋梗塞を発症してしまうということです。
降圧剤の効果ってこの程度なの?って改めて”えーーーっ!”て感じですよね。
そもそも理論的に効用ありと製造されたはずの薬にも関わらず、その効果の面では上記のように心筋梗塞を起こしてしまう患者の3割程度にしか効果がありません。これを7割の人には効果がないと観るか、3割も効果があると観るかは個々人で違うと思いますが。
ほとんどの薬は体の極一部の生理反応を一時的に遮断するか(痛み止、咳止め、降圧、脂質異常抑制、頭痛止など)、栄養補給(点滴など)しているわけですが、一つの素因だけを是正するだけで体全体が治癒するのだろうか。降圧剤を使用する目的は高血圧で高まる心筋梗塞や脳血管障害など血管病の発症を減らすことですが心筋梗塞や脳梗塞は血圧以外の素因もあるようです。血管はコレステロールが素になって形成、修復されますし、血液成分や、外的ストレス(主に交感神経)も血圧に影響を与えます。
繰り返しですが名郷先生の書物ではEBMの視点から現代医学で降圧剤を使用する根拠は成分・効果が説明できることと、高血圧患者の3%に心筋梗塞予防効果があったということになります。
現代医療もあんまりあてにならないんですということではありません。情報量の偏りからか我々一般の人が現代医療を過大評価し過ぎているか、勝手に思い込んでしまっている傾向があるのかもしれないということです。
一方東洋医学をEBMの視点からみてみると、お医者さんが薬を選ぶのと鍼師が鍼を刺す刺鍼点を選ぶことが対峙されると思いますが、薬はその効能が一応科学的に証明されるものが前提ですが、鍼治療でなぜその刺鍼点を選択するかを科学的に説明できることは少ないと思われます。
また症状改善・治癒の効果では、薬はある程度上記のように3%に効くという信頼にたるデータが存在するが、鍼治療では個人的な小規模データが多少あるものの何百、何千人を対象にしたデータはほとんどない状況です。ある種の腰痛などでは筋弛緩剤や痛み止薬よりも、鍼治療のほうが改善率は高いと思われますが、いかんせん大多数が納得できるようなデータはなさそうです。
鍼治療は治療方法の根拠という視点では科学的説明が乏しい分現代医療より明らかに劣っています。一方効果という点では現代医療にも劣らない成績がありそうにも関わらずありません。
それゆえ東洋医学にはEBMの視点に欠けると言われかねないのですが、そもそも西洋医学とてEBMの視点からその程度の効果?と思わるものがあります。がだからといって東洋医学にEBMの視点は不要というのも時代錯誤でしょう。鍼治療もできうる限りなぜそのつぼが効くのか、治療成績をあげるためには他に方法(選択するツボ)が無いのか、二千年続けてきた作業をこれからも最新の科学の目で確認し続けることは必須と思います。
現代医療だろうが東洋医学だろうが、EBMの目的は患者さんの症状に対し緩和・改善・治癒率をあげるために何が適切かを絶えず見直すことが目的と思われますが、患者さんも治療者側も含め全員がややもするとEBMありきでどんな疾患に対してでも必ず効果の出る治療方法があるはずだと決めてかかってしまうことでは
ないでしょうか。
具体的には
1)ちょっとした症状でも何らかの病気ではないかと病名をつけたがること。
⇒多くの場合、体にとっては想定内の出来事(生理反応)です。
自己治癒力でほっておいても治るものが多々あります。とは言いつつ自己判断が難しいし、万が一を考
えると直ぐ病院に行きたくなりますが、現代医学でも原因不明のことは多々あります。
2)体重、身長、血圧、脂質など俗に言う正常値を超えると、なにがなんでも是正しなければなないと思うこと。
⇒よほどの異常値以外には体質であったりその人にとってそれが正常値であることも多々あるようです。
一律に薬を飲ませるのはリスク回避という面も一部にあるようですが、薬には副作用もあることも考慮
すべきと思います。
3)”ぴんころ”が理想といいながらずっと長生きできるはずと思いんでいること。
事故死を除けば例え60代で亡くなっても直前まで元気おられたならば、ある面それはそれで天命だったか
と思えるかということがこの意味だろうと思います。全ての方が100歳を超えるまで元気である日ころっと亡
くなるというわけにはそうそういかないでしょう。突き詰めると人はなぜ生きるか、という人生哲学です。
WHOも相当数の疾患に対しその有効性を示しておりますが、一つ一つの症状に対しどれほどの確立で有効かまで表示したものは確認していません。ひょっとしたらWHOはEBMの視点では遅れているのでしょうか?