昔の鍼は太かった?
6月中旬まで国立科学博物館で開催されている”医は仁術”特別展に行ってきました。
はり師として江戸時代やそれ以前に使用されていた鍼がどんなだったか実物を確かめたかったわけです。
展示内容は圧倒的に書物が多く、鍼灸も含めた医療器具の実物は残念ながらわずかでしたが、江戸時代の鍼を2点見ることができました。
当時は現代の鍼に比べもっと太いものしか制作できなかったのではと想像していたのですが、展示品を見る限り太さは現代のものとほとんど変わりない細さでした。実は戦前まで鍼の材質はほとんどが銀・金であり(今も販売されていますが大変高価なものです)この材質であれば現代と同程度に細い鍼が制作できたのでしょう。江戸時代の人も釘のような太い鍼を打っていたのではなく、ほぼ現代人と同様に細い鍼が使用されていた事に改めて驚いた次第です。昔の人もやっぱり痛くない鍼を望んでいたんでしょうね。
現代日本の鍼灸院で使用されている鍼の太さは0.16mmから0.25mmが主流と思われます。因みに髪の毛の太さは日本人で0.08mm程度、注射針の場合は皮下注射用の細いもので0.5mm(最近の技術で0.15mmの針も開発されているらしい)程度です。
一方銀・金は江戸時代でも高価であったため針先を整えながら何度も使い回ししていました。明治時代になって使い回しするにせよ煮沸消毒をすることが推奨されてきたようですが、戦後昭和40年代頃から感染症予防の観点より鍼は使い捨てることが望ましいとされ、金銀に比べ安価な材質のステンレス製が加工技術の向上とともに一般に普及するようになりました。